明和徒然日記

第31回 ご安航を祈る

イランによるホルムズ海峡封鎖は世界に衝撃を与えた。
当たり前のように供給が受けられていた原油の輸送ルートが絶たれたのだ。
しかし実は30年以上前にアメリカを中心とする多国籍軍とイラクの間で勃発した湾岸戦争でも同様の事態が発生していたのをご存じだろうか。

かなり前の話だが「ペルシャ湾の軍艦旗」という本を読んだことがある。
大量の機雷がばら撒かれたペルシャ湾のクエート沖では戦後の船舶の航行安全確保のために機雷除去が必要となったため日本政府が国際貢献の一環として海上自衛隊の掃海部隊を派遣した際の様子を描いた碇義朗氏によるノンフィクションである。
機雷は金属に反応して爆発するため最近の掃海艇はFRPで作られているが当時の掃海艇はなんと木製で全長は僅か55メートル。
日本近海での機雷除去を念頭に建造されていたため当社の内航タンカーよりも小さく、外洋を航海することなど想定されていなかった。
そんな掃海艇4隻が危険な任務を遂行するために掃海母艦と補給艦に伴われてマラッカ海峡を抜けインド洋を横断してペルシャ湾へと向かったのだ。
実はこの本を手に取ったのは江の島で行われた自衛隊のイベントで一般公開された掃海艇をまだ幼かった子供たちを連れて見に行った経験があったからだ。
だから実際に目にしたあの小さな木製の船が遥かペルシャ湾まで航海して行ったということ自体がまさに驚きであった。

その本の中に掃海船団が日本の領海を離れる直前の石垣島沖を航行中、後方から速度を上げて追走して来た海上保安庁の巡視船がマストに「UW」という国際信号旗を掲げ登舷礼で船団を見送ったという一節があった。
当時まだ別の業界にいた小生は「U」と「W」の旗が「ご安航を祈る」という意味である事をこの時に初めて知ったのだが、海の治安と安全を守る海上保安庁と国を守る海上自衛隊という、異なる任務を持つ者たちの組織を超えたシーマンシップにある種の感動を覚えたものである。
※UWの国際信号旗に関しては明和徒然日記第19回「知らせてくれなきゃ分からない」もご参照ください

当社の内航ケミカルタンカーやLPGタンカーもタンカーとしては比較的小型の部類に入るが、台風シーズンや冬の日本海など海が荒れ狂う厳しい時期でも輸送のご用命があれば悪天候の間隙を突いて運航しなくてはならない。
会社の定める船舶運航安全基準内に天候が収まるまで辛抱強く待ち続け、たとえ基準内に入ったとしても通常とは違う大きなうねりや強い風などの厳しい状況の海で危険物を搭載して運航しているのだ。
だからこそ、いつも安全に輸送をしてくれるプロフェッショナルな乗組員たちには本当に感謝しているし、彼らには心からの「ご安航を祈る」を送りたいと思っている。

筆者 佐藤兼好

UWの信号旗を掲げて引き返す海上保安庁の巡視船(生成AIで作成したイメージ)

UWの信号旗を掲げて引き返す海上保安庁の巡視船(生成AIで作成したイメージ)
上の旗が「U」下の旗が「W」