明和徒然日記
第5回 帽振れー!
船が出航していく姿が好きだ。
仕事柄、各地の石油化学工場の桟橋や岸壁に離着桟するケミカルタンカーを訪船(訪問)する機会が多い。
船内での打ち合わせが終了したら下船して船を見送るのだが、貨物(液体ケミカル品)を積んで目的地に向かう時でも、貨物を揚げ終えて次の積み地に向かう時でも同じように、船の巨体がガランガランとゆっくりとアンカー(錨)を巻き終えて、プロペラを力強く回転させて波しぶきを上げながら次の航海に向かって出航する姿はいつ見ても感動的である。
そして、殆どの場合、船長が操舵室横に張り出しているウィングに出てきて、工場の陸上係員の方々や見送っている私に手を振ってくれる。
これが何ともカッコいい。
空港でも飛行機の操縦席の窓から機長や副操縦士が手を振っていることがあるし、地上係員の方々も出発機が駐機場からプッシュバックされている間、操縦席にいる操縦士や乗客である我々に向かって手を振って見送って下さっている。
昔、日本海軍では軍艦が出航する際に、「帽振れー」といって、見送る側、見送られる側共に帽子を振って出航の挨拶をしていた。
戦争映画やドラマなどでもその様子が描かれる事がある。
当時の人に直接尋ねたことは無いが、見送る側は戦地に向かう仲間の武運を祈って、そして期待を一身に背負って見送られる側は仲間への感謝や自らの気持ちを鼓舞する意味もあって帽子を振っていたのだろう。
時代は変わっても同様に現代の飛行機の操縦士や船乗りたちも、乗客や貨物を安全に予定通りに送り届けなければならないという責任感や出発までの種々の準備をしてくれた方々への感謝の気持ち、見送る方はフライトや航海の無事を祈る気持ちから手を振っているのかもしれない。
だから私も岸壁から船の出航を見送る際には、船からもよく見えるように大きく手を振るようにしている。
工場の敷地内なのでヘルメットを脱いで帽子代わりに振るわけにはいかないが、安全航海を祈って、気持ちは「帽振れー!」なのである。
写真:波しぶきを上げて出航する興和丸(京浜港にて)
(筆者:営業部 佐藤兼好)