船舶は昼夜を問わず視界不良の場合は運航に関し、海上衝突予防法によって規定の音響信号を励行し、その時の事情と条件に慎重な注意を払い、安全な速力で進行しなければなりません。
なお、狭視界とは、霧などによって周囲の視界が制限されている状態のことをいいます。視界何海里以下を狭視界としているかは、各社の安全管理規程で個々に定められており一概には言えませんが、弊社の安全管理規程上の狭視界は2海里(約3.7㎞)以下と定めています。
狭視界航法では、自船の正横より前方に他船の霧中信号を聞き、その位置を確かめることができない時は、速度を減速する等して、衝突の危険がなくなるまで注意して運航するとともに、乗揚げ、底触などの海難事故を起こさないよう万全の注意が必要です。狭視界航行上、当直者が取らなければならない項目は以下のとおりです。
(1)船長報告
当直者が、いの一番におこなわなければならないことで、航行中に狭視界となった時、ただちに船長に報告し指示があればこれに従わなければなりません。
(2)音響信号の開始
狭視界となったら当直者はただちに海上衝突予防法に規定の霧中信号を励行しなくてはなりません。(船舶種類による信号は以下参照)
長音1回は4~6秒程度、短音1回は1秒の吹鳴をいう。
なお、船舶では、電気的に自動で霧中信号をおこなうモーターサイレン等が装備されています。
(3)安全な速力航行
安全な速力は、視界制限、船舶輻輳状況により変わるため一概にはいえませんが、狭視界時において当直者が取るべき行動は、ただちに機関室に通報し機関用意(C重油船であればA重油に切り替えるなど)、次いでその時の事情と条件に慎重な注意を払って安全な速力で航行しなければなりません。
(4)厳重な見張りの励行
狭視界時においては、厳重な見張りを励行しなければなりません。すなわち当直者の他見張員1名以上を船橋等に配置し、当直者と見張員の視覚、聴覚、嗅覚を十分に働かせ、他船または危険物を認めた場合その種類、方向、動静を要領よく報告しなければなりません。特にレーダーは見張りにおいて優秀な航海計器ではありますが、目標物の材質、形状、大小、高低による死角、海面模様、大気状況などによりその性能に影響をおよぼす要素も多く、レーダーのみを頼りに運航することは慎まなければなりません。
(5)船位の確認
視界の良い状態であれば、適当な物標を基に船位を確認することは容易ですが、狭視界時では周囲の物標が見えづらい若しくは全く見えないため船位の確認は困難を極めます。そのため当直者は、自船の状況が危険か安全か把握するためにレーダー、GPS、ECDISなどの航海計器を利用し船位を確認しなければなりません。
(6)航海灯の点灯確認
船舶の航海灯点灯時期は、
① 狭視界以外では、日没から日出まで点灯し、
② 狭視界では、昼夜の別なく日出から日没にあっても点灯しなければならない、
と定められております。そのため当直者は、自船の存在を他船に知らしめるため狭視界では航海灯を 点灯し航行しなければなりません。航海灯の詳細は第20回 船の灯の種類参照
(7)投錨用意
船長は、状況が許すのであれば、不慮の事故にそなえ、行脚停止のためいつでも投錨できるように錨の準備を当直者に指示しなければなりません。