今回は船長の義務について説明致します。船員法では、船舶共同体の安全確保の責任者としての船長に、公法上一定の義務を与えています。主なものは以下のとおりです。
(1)発航前の検査(船員法第8条)
発航前に、船舶が航海に支障がないかどうか堪航能力の検査をするほか、航海に必要な準備が 整っているかどうかについて検査しなければならない。
(2)航海の成就(船員法第9条)
船長は、航海の準備が終つたときは、遅滞なく発航し、且つ、必要がある場合を除いて、予定の航路を変更しないで到達港まで航行しなければならない。
(3)甲板上の指揮(船員法第10条)
船長は、船舶が港を出入するとき、船舶が狭い水路を通過するとき、その他船舶に危険のおそれがあるときは、甲板上にあって、自ら船舶を指揮しなければならない。
(4)在船義務(船員法第11条)
船長は、やむを得ない場合を除いて、自己に代わって船舶を指揮すべき者にその職務を委託した後でなければ、荷物の船積及び旅客の乗込の時から荷物の陸揚及び旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去ってはならない。
(5)船舶が衝突した場合における処置(船員法第13条)
船長は、船舶が衝突したときは、互に人命及び船舶の救助に必要な手段を尽し、且つ船舶の名称、所有者、船籍港、発航港及び到達港を告げなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、この限りでない。
(6)遭難船舶などの救助(船員法第14条)
船長は、他の船舶又は航空機の遭難を知つたときは、人命の救助に必要な手段を尽さなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険がある場合及び国土交通省令の定める場合は、この限りでない。
(7)異常気象などの通報(船員法第14条の2)
国土交通省令の定める船舶の船長は、暴風雨、流氷その他の異常な気象、海象若しくは地象又は漂流物若しくは沈没物であつて、船舶の航行に危険を及ぼすおそれのあるものに遭遇したときは、国土交通省令の定めるところにより、その旨を附近にある船舶及び海上保安機関その他の関係機関に通報しなければならない。
(8)非常配置表の作成及び掲示(船員法第14条の3-1項)
国土交通省令の定める船舶の船長は、第十二条乃至第十四条に規定する場合その他非常の場合における海員の作業に関し、国土交通省令の定めるところにより、非常配置表を定め、これを船員室その他適当な場所に掲示して置かなければならない。
(9)操練の実施及び旅客に対する非難要領などの周知(船員法第14条の3-2項)
船長は、防火操練、救命艇操練、救助艇操練、防水操練及び非常操舵操練を実施しなければ ならない。
(10)遺留品の処置(船員法第16条)
船長は、船内にある者が死亡し、又は行方不明となったときは、法令に特別の定がある場合を除いて、船内にある遺留品について、国土交通省令の定めるところにより、保管その他の必要な処置をしなければならない。
(11)船舶書類備置義務(船員法第18条)
船長は、船舶国籍証書若しくは仮船舶国籍証書、航行認可書又は船籍票、海員名簿、航海日 誌、旅客名簿、積荷に関する書類を船内に備え置かなければならない。
(12)航行に関する報告義務(船員法第19条)
船長は、次の場合には、行政官庁にその旨を報告しなければならない。
①船舶の衝突、乗揚、沈没、滅失、火災などの損傷、その他の海難が発生したとき
②人命又は船舶の救助に従事したとき
➂無線電信によって知ったときを除いて、航行中他の船舶の遭難を知ったとき
④船内にある者が死亡し、又は行方不明となったとき
⑤予定の航路を変更したとき
⑥船舶が抑留され、又は捕獲されたとき、その他
船舶に関し著しい事故があったとき
(13)航海当直の実施(船員法施行規則第3条の5)
船舶の船長は、航海当直の編成及び航海当直を担当する者がとるべき措置について国土交通大 臣が告示で定める基準に従って、適切に航海当直を実施するための措置をとらなければならない。
(14)巡視制度(船員法施行規則第3条の6)
船長は、船舶の火災の予防のための巡視制度を設けなければならない。
(15)水密の保持(船員法施行規則第3条の7)
船長は、船舶の水密を保持するとともに、海員がこれを遵守するよう監督しなければならない。
(16)非常通路及び救命設備の点検整備(船員法施行規則第3条の9)
船長は、非常の際に脱出する通路、昇降設備及び出入口並びに救命設備を少なくとも毎月一回点検し、かつ、整備しなければならない。
(17)船上教育など
船長は、海員に対し、当該船舶の救命設備及び消火設備の使用方法に関する船上教育及び船上訓練、海上における生存方法に関する船上教育並びに救命いかだの使用方法に関する船上教育を一定の間隔で実施しなければならない。なお、船上訓練を行ったときは、その概要を航海日誌に記載しなければならない。