明和海運株式会社

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海運豆知識

第143回

海上安全における人命の安全のための国際条約

1.タイタニック号の遭難とその教訓
英国のホワイトスター社のタイタニック号は、1908年(明治41年)にアイルランドのベルファストで建造が開始され、1911年(明治44年)に進水しました。デッキには、木造の救命ボート16隻と折りたたみ式救命ボート4隻が搭載されておりました。1912年(明治45年)4月10日に、英国サウザンプトンを出港して、アメリカのニューヨークに向かう処女航海に出発、4月14日には、氷山出現の警告を付近の他の船から7回にわたり受け取っておりましたが、その日の2時40分頃、氷山が船首右舷に激突して浸水が始まりました。4月15日の午前0時頃、タイタニック号は無線で救難信号を発信、0時5分頃乗客及び乗組員はデッキに集合したが、全乗船者数の約半数が収容できる救命ボートしか搭載しておりませんでした。2時5分頃、最後の救命ボートがタイタニック号を離れていき、1500人以上の乗客・乗員が船上に取り残され2時18分頃、タイタニック号は2つに折れて、船首部分が海中に沈み、その約2分後に、切り放された船尾部分が海中に没しました。
タイタニックの海難事故は、海上における船舶の安全上、次にあげるような多くの教訓を残しております。
船体の水密構造の問題
右舷船首の舷側の氷山との衝突による亀裂部の長さは、約70mで5区画でありましたが、水密隔壁の間隔や高さが十分ではなかったことが、結果、沈没の時間を早めることに繋がった。
②遭難通信の聴取の問題
タイタニック号の最大搭載人員は3500名であるのに、搭載救命艇は16隻で、全収容人員はその他の端艇などを含めても1700名でありました。しかも、積み付け位置が水面上約20メートル以上の高さで、救命艇の降下進水作業が困難な状況にあった。
③流氷監視の問題
北大西洋の流氷海域における流氷監視が国際的に実施されておらず結果的に氷山に衝突して大きな犠牲を出してしまった。

2.SOLASへの発展
タイタニック号事件をきっかけに、船舶の構造・設備などについて国際標準を協定することが進展し、1914年(大正3年)には海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)が成立、その後、幾度かの改正を経て1974年10月ロンドンにおいてIMCO(政府間海事協議機関、現在はIMO)の主催により、日本をはじめ主要海運国を含む67ケ国が参加して、1974年(昭和49年)11月「海上における人命の安全のための国際会議」が開催、同条約が採択。本条約では、安全規制の一段の強化が図られたほか、今後の技術革新等に即応するため、条約改正手続きの簡素化が図られ現在に至っております。

3.SOLAS附属書の主な内容
①条約本分において、発効要件、改正手続き、署名・受諾などに関して定めている。
②附属書第Ⅰ章において、第Ⅱ章以下に規定する技術基準を確保するための検査の種類、時期及び内容、条約証書の発給並びにPSCなどについて規定。
③附属書第Ⅱ章において、構造(区画及び復原性並びに機関及び電気設備)、船舶の損傷による転覆・沈没の危険を防ぐための区画及び復原性の要件並びに通常の使用状態、及び非常事態における船舶の安全のための機関及び電気設備及び構造(防火並びに火災探知及び消火)について規定。
④附属書第Ⅲ章において、乗船者が脱出するための救命設備の要件及び迅速に避難するための乗組員の配置・訓練などについて規定。
⑤附属書第Ⅳ章において、無線設備の設置要件、技術要件、保守要件などについて規定。
⑥附属書第Ⅴ章において、船舶が安全に航行するため、締約国政府及び船舶が執るべき措置、海上における遭難者の救助並びに船舶に備える航行設備の要件などについて規定。
⑦附属書第Ⅵ章において、貨物の積付け及び固定などの要件について規定。
⑧附属書第Ⅶ章において、船舶が運送する危険物に対し、包装、積み付け要件などを規定するとともに、危険物をばら積み運送するための船舶の構造、設備などについて規定。
⑨附属書第Ⅷ章において、原子力船について、原子力施設を備えているという特殊な事情を考慮し、追加的安全要件が規定。
⑩附属書第Ⅸ章において、船舶の安全に関する運航管理が適切に行われていることを確保するための要件について規定。
⑪附属書第Ⅹ章において、高速船の安全確保のための要件について規定。
⑫その他、ばら積み貨物船、油タンカーに対する検査強化措置、操作要件に関する寄港国による監督などについて規定。ばら積み貨物船の安全措置に関して規定。