明和海運株式会社

60th anniversary

クローズアップ明和

第70回

石油化学製品のイロハ

石油化学製品は、もともとは石油や天然ガスから幾重もの生産工程を経て、自動車の部品や、衣服の生地、薬品やお惣菜のトレーなど私たちの生活に必要な最終製品へと姿を変えていきます。
このシリーズではそのような石油化学製品について、コテコテの文系頭の筆者が難しい化学式や計算式などは省いて、分かる範囲で少しだけご紹介いたします。

第7回 スチレンモノマー(スチロールって植物?)

今回はスチレンモノマーをご紹介いたします。
スチレンモノマーは第1回でご紹介した「石油化学製品のご先祖様」であるナフサを分解して最初に製造されるエチレンと、第3回でご紹介した「美しい別名と強い匂いと大量のスラッジを持つ」分解ガソリンから抽出されるベンゼンを元に製造されるエチルベンゼンという石油化学製品を更に脱水素化して得られる無色透明の液体です。

スチレンモノマーから作られる製品で筆者がすぐに思い浮かぶものと言えば発泡スチロールです。
発泡スチロールはご存知のように魚市場やスーパーの食品売り場などでよく見かける魚を入れている白い箱や小売り用の肉や魚のトレーなどに使用されています。
製法としてはスチレンモノマーを重合させてできるポリスチレンの粒と空気を混ぜ合わせたもので、何と全体の98%が空気で構成されています。
そのため、軽量で弾力性があり衝撃吸収性に優れているので魚の箱以外にも精密機械や家電などの緩衝材として広く使用されています。

  • 家電製品の緩衝材として使用されている発泡スチロール
    画像:家電製品の緩衝材として使用されている発泡スチロール

最近は大きめの気泡緩衝材(いわゆるプチプチの大きなもの)や段ボール製の緩衝材等も多用されていますが、以前は緩衝材と言えばほとんどが発泡スチロールでした。
そして、子供の頃に発泡スチロールを壁などで削って粉雪のように巻き散らして遊んだ事があるのは筆者だけではないはずです。

また、ポリスチレン製のプラスティック製品として代表的なものはプラモデルでしょう。
プラモデルとは文字通りプラスティック製の模型の事であり、小学生の頃の筆者にとってプラスティックとは、すなわちプラモデルの事でした。
ポリスチレンは硬さがあり、着色性、接着性に優れているのでプラモデルには最適な素材なのです。
それに加えて安価なので、子供たちのお小遣いで買えるという事も重要なポイントです。
蛇足ですが、筆者がプラモデルに夢中になっていたころは戦車や戦艦が人気でしたが、1980年代にいわゆるガンプラ(アニメ機動戦士ガンダムのプラモデル)ブームが到来するとプラモデルの生産量は爆発的に伸びました。
しかし90年代に入ると子供たちの興味はテレビゲームに向かってしまい、プラモデルの生産量は急激に減少します。
ところが時折復活するミニ四駆ブーム等によりプラモデルの生産量は再び回復基調に乗ります。
更に2010年以降はクールジャパンの波に乗り、OTAKUという言葉が世界共通語として市民権を得たように、今度は海外のアニメマニアやプラモデル愛好家が日本製のプラモデルを購入するようになったため、現在は右肩上がりの伸長を維持しているそうです。
意外にも機動戦士ガンダムとスチレンモノマーは深い関係にあったのです。

  • プラモデルの箱に記載されている製品素材表示
    画像:プラモデルの箱に記載されている製品素材表示
    ※PS(ポリスチレンの略)
     PE(ポリエチレンの略)も一部使用されている

また、スチレンはエチレンと同じくナフサ分解で生じる基礎製品のBB(ブタン・ブタジエン)留分から得られるブタジエンと合成されて合成ゴムの原料となります。
合成ゴムにはいろいろな原料で造られた各種のゴムがありますが、このスチレンブタジエンゴムは耐熱性、耐摩耗性、耐老化性に優れているため自動車のタイヤやゴムホースなど私たちの日常生活に密接した製品の材料として使われています。

更にはアクリロニトリルとブタジエンとスチレンを結合させたアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂があります。
このABS樹脂は耐熱性、耐衝撃性、光沢性、加工性に優れるという非常にオールマイティな性質を持ち、エアコンや冷蔵庫などの家電やパソコンのボディ、旅行用のキャリーケース、自動車の内外装、ゲーム機等、多種多様な分野で広く使用されています。
金属と見間違うほどの美しいABS樹脂の光沢性はデザイン性を重視する現在の工業製品に非常にマッチしているため、最も汎用性の高いプラスティックと言われています。

ところで、スチレンという名前は、この石油化学製品がStyrax Officinalというエゴノキ科の植物から得られる天然樹脂である「蘇合香(そごうこう)」と同じ成分であることに由来しています。
それが慣用名として英語ではSTYRENE(スチレン)、ドイツ語ではSTYROL(スチロール)という名称で呼ばれるようになりました。
つまり、私たちが普段使っている発泡スチロールのスチロールという呼び方はエゴノキ科の植物名のドイツ語訛り?だったというわけです。
ちなみに、紀元前3世紀頃、インドのアショーカ王が病に倒れた際に蘇合草から作られた薬で回復したという伝説がありStyrax OfficinalのOfficinalは薬草という意味を持っています。

遠い昔、アショーカ王の命を救った蘇合香と同じ成分を持つスチレンは21世紀の現在では、各種プラスティック製品やゴム製品の原料として私たちの生活に不可欠な素材になっているのです。